AFLの戦い方 第13回 <マーク・トンプソンという男>

2014/04/22

Mark Thompson、何者かご存知だろうか。
2014年のエッセンドン・ボンバーズの監督である。



荒波を越えてきた厳しい表情、厚い胸板、太い腕、今からでもグラウンドに戻れそうな体格をキープし、時に恐ろしいまでの形相で試合を見つめ、かと思うと、急にユーモアたっぷりの動きを見せる。
 
1983年から1996年までエッセンドンで202試合を戦って引退。いわゆるOne Club Playerだ。移籍することなくひとつのクラブでプレイを続けるプレイヤーを、敬意を表してこう呼ぶ。
 
引退後、監督のキャリアはジロング・キャッツからスタートすることになる。2007年、2010年にはチームを優勝に導き、ジロングの黄金期を作りだした。ジロング独特のスピード感ある攻撃スタイルを確立したのも彼だ。
 
監督としてジロングで260試合を戦い、161勝96敗3分と素晴らしい成績を残すも2010年に退団。
 
さて、2011年。
 
1992年から2007年まで253試合をエッセンドンでプレイした、こちらもOne Club PlayerのJames Hirdが若くしてエッセンドンの監督に就任。
 
そして、その若い監督を支えるべく古巣に帰ってきた男、トンプソン。

 

プレミアシップコーチ(GFで優勝したチームのコーチ)に輝くこと2回。ジロング・キャッツの黄金期を支えた名監督が、引退したばかりのハードのアシスタントコーチとなる。そんな、監督とアシスタントコーチの関係に誰もが違和感を持っていた。
 
真剣な眼差しで指揮するハード。その後ろでリラックスした態度で試合を楽しむトンプソン。このアンバランスな構図に心が落ち着かなかった。経験の浅い監督と、経験豊かなアシスタントコーチ。どう見ても、チームは混乱するだろう。
 
プレッシャーを感じながら指揮をとるハードをよそに、トンプソンは自由に振る舞い、プレッシャーを感じていないように見え、時には試合中にふざけたような態度を見せることもあった。

 

そして、1人のエッセンドンファンとしてその振る舞いにはもどかしさを感じていた。
 
しかし、だ。
最近感じていることがある。
あの男は、「そう振る舞っている」のではないかと。
 
ハードはエッセンドンでエリートプレイヤーとして扱われ、容姿もよく、信頼を集めるクラブの顔。そんなプレイヤーだか、監督の仕事となると話は別。プレッシャーもあり、監督としてのキャリアが浅い間はクラブ内外の信頼を集めるのに苦労する。
 
一方トンプソンはカメラの前でおどけてみせたり、練習中や試合中も集中していないそぶりを見せたり・・・。そんなキャラクターを作り、自分の不真面目さをさらけ出し、自分のそんな姿にメディアの注目を集めながら、ハードにかかるプレッシャーをうまく減らしていたのではないか。
 
2011年から2013年まで監督を務めたハードだが、2014年、クラブのサプリメント問題の責任を追及された。その結果、1年間試合出場停止という処分。
監督としてチームの指揮をとれない間は海外で過ごし、1年後にはクラブに戻る予定だという。
 
2014年シーズンの監督代行はトンプソン。
 
彼はコーチングボックスでリラックスして振る舞い、マスコミにも冗談を飛ばし、「ちょっとお茶目な監督」となっている。時には試合を楽しむ余裕を見せ、1人のフットボールファンのように振る舞っており、プレミアシップコーチの影はない。
 
まるで自分を監督としてみてほしくない。と言うように。

 

それはプレイヤーとして活躍したクラブ「エッセンドン」を尊敬し、エッセンドンが育てたプレイヤーJames Hirdを尊敬し、Hirdが監督として更なる大輪を咲かせるための花道を作りたいと願う、トンプソンなりの「振る舞い」なのだろう。
 
彼は開幕前のインタビューでこう言った。
「もちろん、来年は監督をやらないよ。今年1年だけだ。」
 
彼はあの男の帰りを待っている。



エッセンドンを深く愛している彼はこうも呼ばれている。
ボマー・トンプソンと。
 

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